お侍様 小劇場 extra
〜寵猫抄より

   “まだ夏じゃないのに”
 


あのね?
こゆのぼりゅの ごるでんうぃくってゆーののあと、
ちょっとしゃむかったのね?
でもでも、おコタないないしちゃってて、
しょがないから カンベのお膝よじよじしよって思たらね?
ごほんのおへあで おしゅもとなんだって。
しちや クロちんと“しょがないね”ってゆって、
もふで もふもふちてたらね?
やと おひしゃまが“こにちはー”って 出てきたのーvv

 したら、あのね?
 こんどわ しゅごい あちゅいちゅいなの、
 やーねーもぉ。




    ◇◇◇


幼児語って、油断するとオネエみたいになるから困ります。
あれですかね、お母さんの話言葉から学習するからでしょうかね?
でも、こちらのお宅の場合は、お母様役も男性ですし、
家人である御主へも それは折り目正しく話すお人なんですがね。

 「今日は朝からいいお天気だねぇ。」

庭先でぱんっとシーツを広げては、物干しへ干し出す手際も軽快な、
金髪色白、しゅっと締まった体躯も美々しい長身の君。
空が明るみ始める頃合いからという早い時間帯から起き出して。
母屋の雨戸や鎧戸を開けて回りの、
そのついでに、手洗い用のタオルや足ふきマットなどなど、
洗濯物を集めて回りのし。
スマホへのメールをチェックしながら洗濯機を回すと、
腕によりをかけた朝ご飯の支度にかかるという、
当家一番の働き者でもある七郎次さん。
学校や会社に行く人はないけれど、だからといって怠惰はいかんと、

 『勘兵衛様、朝ですよ? 温ったかいご飯が待ってますよ?』
 『久蔵もクロちゃんも 起っきしましょうねvv』

やっと昨夜 原稿の執筆から解放された勘兵衛へも
リビングのソファーで奔放な寝相を披露して寝ていた仔猫たちへも
不公平なく穏やかな声をかけて起こし。
今朝は 勘兵衛には甘塩サケの焼いたのを、
仔猫たちへはツナのバターオムレツをメインに、
ハクサイのおみそ汁と、釜あげシラスの大根おろし、
スナップエンドウと春キャベツの炒めものといった、
おいしいご飯を家族たちへ食べさせて。

 『わあ、まだ熱いよ、久蔵。』

オムレツの皿へ顔からダイブしかかったメインクーンさんを、
すんでのところで はっしと捕まえ。
懐ろへ抱え込んだ坊やの両手首を片手でやすやす封じると、
スプーンへすくった半熟ふんわりのオムレツを
よ〜く吹き冷ましてから
“さあどうぞ”と小さなお口へ運んでやる一方で、

 『クロちゃん、シラスばっかり食べてちゃダメだよ?』

育ち盛りなんだから、タンパク質いっぱいの卵も食べないとと、
そちらのおチビさんへもオムレツを
“ほら あ〜んして”と勧める甲斐甲斐しさよ。

 “いやそんな風に言っても通じなかろうと、
  儂が言うのは白々しいかの?”

ある意味 ワケありな御主が
内心に止どまらぬくすぐったそうな苦笑を
旨みの深い鮭と共に咬みしめつつ見つめる中。
美味しい美味しいとあぐあぐ頬張る健啖家なお子ちゃま二人へ、
とろけそうなお顔で世話を焼いてから。
お片付けもてきぱきと済ませて、さて。
洗濯機が頑張った洗い物をカゴに移して、
夜明けにピンと張っていた清かな空気が、
今はもう 陽に温められての随分と、

 「人懐っこいを通り越して、
  もう暑いほどですよ、今時分から。」

リビング前のポーチから、瑞々しい緑が広がる庭を見渡す勘兵衛へ、
苦笑交じりにそんな声をかければ、

 「ならば 気をつけぬとなぁ。」

持ち重りのしそうな大きな手を添えた顎髭をサリサリと摺りつつ、
どこか意味深な思わせ振りの濃い笑いようをするのは、

 「お主が日射病や熱中症になって倒れぬよう、
  クロや久蔵にも見張ってもらわねば。」

 「う…。//////」

寒い土地の生まれという訳でもないのだが、
こちらの美丈夫様、どういうものか猛暑に弱い。
見栄えの嫋やかさと裏腹、武道も修めた剛の者だというに、
夏場にうっかり庭に長くいて、目眩いを起こしたことも数知れずで。
小さな久蔵が必死に呼びかけ鳴き騒ぎ、
書斎にいた勘兵衛を引っ張り出した逸話もあるくらい。

 「ま、まだ大丈夫ですよ。
  今日のはほら、昨日までの大雨の吹き戻しのせいでしょうから。」

台風と同じで、強い低気圧がもたらした雨だったから、
それが去った後はフェーン現象に似たことが起きる…と言いたいらしく。
確かに、ツツジやサツキの茂みには、雨露がたっぷりまぶされていて、
陽に照らされることで目映さも倍増しているほど。
大人二人がそれぞれなりの事情から、
もっともらしい言い回しで大外からの論を交わしているその足元を。
たか・たったかと軽やかに、
こちらはすっかりと乾いている芝草の上
小さなその身を、撥ねさせるような足取りで弾ませもって。
さあ遊ぶぞと駆け回っておいでの仔猫二人。
地へ落ちる短い陰はその色も濃く、
七郎次の言い訳はともかく、
夏を思わせる気配が はや此処にもという趣き。

 「にゃっ♪」

たか・たったと、
坊やの姿でも結構早く駆け回れるようになった久蔵が、
小さなお手々でわさわさ掻き分けたのは、
今を盛りとそれは張り切って
丈夫そうな葉を大きくつけているアジサイの茂み。
こちらも昨夜までの雨を浴び、
こんもり盛り上がった青葉のどれへも、
たっぷりと雨露をたたえていたものだから。

 《 ………あ。》

後から追ったクロが、わあとたたらを踏むよに立ち止まった先。
押し分けた枝が最初は短かったから、
そこではまだ気づかなかったらしいのへ、
だからこそ踏み込んだ中程の大枝を押さえたその拍子、
ぶんっと周囲の枝もろとも大きく跳ね返り。
それぞれの葉の上へたっぷりと蓄えていた水玉を、
悪戯っ子への反撃よろしく、
息を合わせて そぉれっと、一斉に振りかけたから たまらない。

 「みゃっっ!」

あっと言う間に小さな身を頭からびしょびしょにして、
みゃうにぃ〜…と、何とも か細い声を上げたおちびさん。
それへと気がついた七郎次が、ひゃあと彼もまた大仰な悲鳴を上げ、
お風呂だタオルだと大慌てで救出へ向かったその後の、
シーツがはためく竿受けに、
ちょっぴり大きめのカタツムリが這っていて。

 《 こっちが見つからなくてよかったことよ。》
 《 ? どうしました?》

ああそうだったな、お主はまだ知らなんだかと。
月夜には辣腕の大妖狩りと変貌するあの子が、
だというに、実は大の苦手にしている小虫がある話。
語る前から吹き出しつつ、
小さな黒猫さんへもと話して聞かせる壮年殿であったそうな。






  〜Fine〜  14.05.28.


  *いやもう、我が家のアジサイが我が物顔で繁茂しとりまして。
   裏の勝手口への通り道をとうとう塞ぐまでに育ってしまってます。
   去年もこんな大きかったかな、さてねぇと
   母と困惑している始末。
   これが以前のように花は1個だけという“ふざけんな”状態なら、
   この時期だけどと端から刈ってたかもですが、
   今年も幾つか咲きそうな蕾が見受けられるので、
   下手に手も掛けられずで。
   まあね、アジサイは毒性があって、
   毛虫やカタツムリはつきませんからそこだけは買いますが…。

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